水彩風景画・ペンを使う?使わない?

ペンを使った場合の着彩と使わない水彩画

スケッチに出かけて短時間でさっと目の前の風景を描く――そんな姿はかっこいいと思う人は多いだろう。スケッチをすると旅先での景色がより強く思い出に残るのも確かだ。
スケッチ画にペンを使う人はとても多い。私が所属している日本スケッチ画会の展覧会では、スケッチの線と紙の白さを生かしながら透明感のある水彩絵具で爽やかな風景画がずらりと並ぶ。
ペンまたは鉛筆の線を生かした絵と、下書きの線をあまり残さず水彩絵具だけで描かれた絵、どのように違うのだろうか?

線を生かす=軽い着彩

ペンの線を生かしたスケッチ画の場合は、おおむね色は淡く、軽いタッチで塗ることができる。形の説明はほぼ線に頼るため、線画としての完成度はかなり求められるだろう。その代わり色による塗り分け、面としての説明はあまり必要ではない。
要はモチーフの形をしっかりと線で捉え、魅力的な線を描くことが重要で、絵具での仕事は色付け程度でOK。

片瀬漁港のスケッチ(F3)

こちらの絵は江の島が見える片瀬漁港でペンを使ってF3サイズにスケッチしたもの。ロープやアンテナなど線の多い漁船は、ペンで描く方が楽に描ける。主役の漁船はしっかり手を入れ、背景となる江の島にはほぼペンは使われていない。

水彩絵具だけで表現する方が難度は高い

一方、下書きの線を最終的には塗りつぶしてしまう水彩画は、色だけで形を表現していくので、コントラストを強めるなど時間もテクニックも必要だと思う。

片瀬漁港(F6)

こちらは上とほぼ同じ場所をF6サイズに描いた。マスキングで白く塗り残す部分を先に決め、しっかりと塗り重ねて徐々に形が見えてくるような描き方をしている。

ペンを使うか使わないかは好みの問題

ペンを使ったスケッチ画は素早く描けるので、私も野外で描く際には多用している。今はペンの線を生かした「おしゃれな街角スケッチ」を描く練習もしているので、ペンの太さをいろいろ試してみている。
もともと使っていたピグマの耐水性のペンが気に入っていて、太さは0.3~0.5、色は黒だけでなく茶色も愛用している。ただ最近はステッドラー製で角度によって0.3~2.0まで太さの変えられるペンを使い始めた。影のくっきり出ている部分にはより太い線を用い、時には黒々と塗りつぶして、かなりコントラストをつけたイラストとなる。

建物の線が複雑でペン画向きだが1時間近くかかった(着彩は15分程度)

一方で色だけの水彩画のほうが気合が入るのも事実。こちらは時間もかかるので、自宅で落ち着いてゆっくりと描き進める。自分の中で初めにこんな風に描こうというしっかりとしたイメージを持っている時ほど楽しく描ける。下書きはHBなど薄い鉛筆で最低限の線しか描かない。私の水彩画はコントラストが強く、色づかいも濃いので、水彩画用紙はかなりしっかり色が入るアルシュかウォーターフォードでないと満足できない。

この絵にペンの線は不要

このようにペンを使うか使わないかは、私の場合はモチーフにもよるのだが、見る人も好みがはっきり分かれるように思う。淡い絵が好きな人、はっきりとした絵が好きな人、いろいろいる。私もうまく使い分けながら「自分らしさ」を作っていきたい――まだまだ試行錯誤中…。将来的には日本スケッチ画会の先生方のように手軽なスケッチを各地で広めていけたらと思っている。