永山裕子著「絵が上手いより大事なこと」
一目で永山流と分かる個性
永山裕子先生はこれまでいくつか水彩画の技法書を出版されているのだけれど、今回の「絵が上手いより大事なこと」はQ&Aのような形式で成り立っていて、功名な画家である永山先生の考え方に触れることができる。
数年前に横浜のそごう美術館で個展を開かれていた時に永山先生のお姿をお見かけした際はお着物を着て、作品のイメージにぴったりだと思った。ご本人は関西人らしいユーモアのある方で着物姿を「銀座のママみたい」とどこかで書いていたけれど、イタリアなど世界的な水彩画展覧会に参加されるときに着物の似合う日本人女性がすごい作品を描いていたら――きっと人気があるだろうな。
私は永山先生のような絵は逆立ちしたって描くことができないけれど、彼女の数多くの作品――静物画・人物画・風景画・抽象画――の中でも、この本の装丁にもなったような静物画が代表作として頭に浮かぶ。水の入った器に無造作に置かれた赤い南天の枝、水に映る空、こぼれ落ちる南天の赤い実、バックの暗い部分は水彩絵具の滲みが湧き出るような…そんなイメージ。(もちろん静物画を描くために、よく考えながらたくさんのモチーフを組んで、光のあたり具合や構図にもこだわっているのだろうけど、一見「無造作」に見える。)
アトリエにはガラスの器やアンティークな小物がたくさん所蔵されているそうで、いつ出番が来ても良いようにスタンバイされているらしい。そんな宝箱のようなアトリエ、羨ましい。
著書の中で印象に残った言葉は多々あるけれど、少しだけご紹介(あとは是非読んでみてください、作品もかなりの数が掲載されている)。自分のための覚書もつけておこう――
「カラリスト」「トーナリスト」
著書の中で「カラリスト」と「トーナリスト」という言葉に初めて出会った。色彩で表現する人と、明暗で表現する人のことだそう。どちらも大事にしたいと思う。
「水彩画を描いているのではなく、自分の絵を描いている」
水彩画だから白は使わないとか「決まりごと」はいらない、自分が納得できる絵を描けば良いのだというようなことを書かれていて、教室で白も黒も使わないと言っていた自分に反省…。
「水彩画の場合はもうちょっと描かなきゃなというところで一度止める」
私もいつも9割がた描いてから、1週間、時には1ヶ月も放置することがある。終わりを決めるのはいつも難しい。描きこみすぎるのも良くない。
描いている時は熱中しているから自信たっぷりで名作が描けたような気にもなるけれど、頭を冷やしてから見ると違った印象で見えることもある。だから、時間がかかる。

永山裕子著「絵が上手いより大事なこと」芸術新聞社(2022年)